名古屋地方裁判所 昭和35年(ワ)1035号 判決 1960年9月16日
原告 錦観光自動車株式会社
被告 錦観光自動車株式会社破産管財人 亀井正男
補助参加人 株式会社大垣共立銀行
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は原告又はその代理人に対し別紙目録記載の帳簿及書類等を閲覧に供し、騰写をさせなければならない。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として「原告は昭和三十二年八月三十一日午後一時名古屋地方裁判所において破産宣告を受け、被告は同時にその破産管財人に選任され、爾来原告の財産(別紙目録記載の帳簿及び書類を含む)を占有管理しているものである。原告は強制和議、免責等の申立のため別紙目録記載の帳簿等の閲覧謄写の必要があるので本訴に及んだ。」と述べ、甲第一、二号証を提出し、丙号証の成立を認めた。
被告は、本件第一回の口頭弁論期日に出席しなかつたので、被告において陳述したものとみなされた答弁書によれば被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、原告の請求原因事実はすべて争わないが本件破産事件においては、債権者集会の決議を以つて原告に対する帳簿類の閲覧、謄写はこれを拒否すべき旨決議せられている」というにある。被告は甲各号証の成立を認めると述べた。
被告補助参加人の訴訟代理人は、本件帳簿等は破産宣告の日時に破産者に属した動産として、当然破産財団を構成するから、その管理は破産宣告後においては破産管財人の専権に属する。従つて原告の本訴請求は当事者適格を欠く不適法なものか若しくは実体上の理由を欠くのいずれかであり、訴の却下若しくは請求棄却の判決があつてしかるべきである。なお別紙目録記載の帳簿等の中目録進行番号一ないし四及び七、八は不存在である。と述べ、立証として丙第一号証を提出した。
理由
原告が昭和三十二年八月三十一日午後一時破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任せられたこと及び被告がその職責上別紙目録記載の帳簿を保管していることは当事者間に争いがない。
そこで原告が破産管財人である被告に対し右帳簿の閲覧謄写を求める請求権があるか否かについて案ずるに、破産法には破産者に対してかかる権利を認めた規定は存在しない。原告は法律に明文がなくても、破産者がかかる権利を有することは当然の事理であると主張するが、破産財団に属する財産の占有及び管理は破産管財人の専権に属すること破産法第一八五条によつて明らかであり、本件帳簿も亦破産財団に属する財産であることは同法第一八七条の規定上疑を容れる余地がない。破産管財人は破産者の財産に関する帳簿を調査して破産財団の現状を知り、そして破産財団の換価、破産債権の調査及びこれに対する配当表の作成等をなす義務がある。然るに破産者が日時、場所、期間を問わず、何時にても破産管財人に帳簿の閲覧を求め、又はその謄写を請求し、若し破産管財人が事務処理上支障ありとしてこれを拒否すれば破産者が判決に基いて、執行吏をして破産管財人の抵抗を排除せしめ(執行吏執行等手続規則第五六条)強制的に破産管財人の手から帳簿等を取り上げてこれを閲覧し又は謄写することができるとすれば、事実上破産管財人の破産事務処理に重大な支障を来たさないとも保し難い。法律上破産財団について一切の管理処分権を失つた破産者が、破産管財人の事務処理を妨害してまで帳簿を閲覧、謄写する権利を有するとは到底理解し難いところである。よつて原告の本訴請求は理由なきものと認め、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 松本重美)
目録
一、固定資産台帳 一冊
二、総勘定元帳 一冊
三、貸借対照表 一冊
四、諸経費明細帳 二冊
五、銀行勘定元帳 二冊
六、菓金帳 一冊
七、手形受払帳 一冊
八、旅客収入帳 二冊
九、金銭出納帳(小口支払帳共)四冊
一〇、諸勘定元帳 十二冊
一一、仕入帳 三冊
一二、売上帳 三冊
一三、決算明細書 一冊
一四、雑綴 一冊
二五、預金通帳(大垣共立銀行)一冊
二六、税務署決算報告書 一冊
一七、経理引継明細書綴 一冊